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「物語を紡ぐ音楽」河北新報朝刊・寄稿コラム「微風旋風」No.4

 最初に曲を書いたのは22歳の時。あれから30年たった。きっかけは小学生の頃に地域で始められた「子ども太鼓」にさかのぼる。会は結成当初こそ盛り上がりをみせたが、進学や就職とともにメンバーは減少。10年が経過する頃には存続の危機に陥った。長年活動し、太鼓の楽しさや仲間との連帯感、聴衆との共感を経験してきた私は、この灯を消してはならないと考えた。

 和太鼓の魅力はどこにあるのだろう。一つは「音に内在する郷愁」。祭や盆踊りを連想するからだろうか。音に懐かしさがある。もう一つは「打音に広がる想像世界と物語性」。打音だけなのに時代や風景、情緒が受け手に伝わる。映画ではなく書物を読むように、テレビではなくラジオドラマを聴くように。情報を減らすることで聞く人の想像力をかき立て、物語を描かせる特性がある。そして「神秘」。神主や僧侶が鳴らす太鼓は、目に見えない対象に祈りをささげる「言霊」だ。この音に言葉を超えた言葉が託される。

 では、その太鼓の魅力を踏まえて、会をどう導くべきか。それは、故郷に眠る宝を見つけ出し、それを主題とした、受け継ぐに値する演目を作ることではないか。太鼓を用いて音を帯の模様のようにアンサブルで紡ぎ、音楽や物語を形作る。イベントの出し物ではなく、テーマに基づいた演奏会とすることで、奏者自身に演奏の役割と意義を自覚させ、学びの場とする-。こうした考えに至り、視界が開けた。

 しかし、その曲や物語は誰が作るのか? 作曲を依頼するお金などない。すぐに壁に突き当たった。もう自分で作るしかない。これが作曲と演奏会活動の始まりだった。初めての演奏会を経て、会員の心には、曲の物語を想像して演奏するという知的な興味が芽生えた。すると辞める人は減り、仲間は増えていった。会は年1回の演奏会を続け、昨年第30回公演を迎えた。

 私は今、和太鼓だけではなく器楽や合唱曲も書く。その数は286曲になった。創作の源は、最初の曲を書く時に得た気付きと学びにある。10月4日、北海道七飯町で、作曲・指揮・芸術監督を務める「石川啄木記」と題した和太鼓音楽劇を上演する。啄木の心の風景を紡ぐために。


河北新報朝刊・寄稿コラム「微風旋風」No. 4(2020年9月24日・文化面掲載


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